【レビュー】映画「駅 STATION」冬の北国で心がすれ違う男と女

映画・ドラマレビュー
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作品概要

『駅 STATION』は1981年に制作された北海道を舞台とした作品。高倉健が演じる北海道警察の三上と関わる3人の女たちが描かれ、八代亜紀のヒット曲『舟歌』が印象深く使われています。

1982年の第5回日本アカデミー賞では最優秀作品賞、最優秀脚本賞、最優秀主演男優賞、最優秀音楽賞、最優秀録音賞と5冠に輝きました。

脚本:倉本聰
監督:降旗康男
上映時間:132分

主なキャスト

  • 三上英次 : 高倉健
  • 直子(英次の元妻) : いしだあゆみ
  • 吉松すず子 : 烏丸せつこ
  • 吉松五郎(すず子の兄) : 根津甚八
  • 木下雪夫 : 宇崎竜童
  • 森岡茂(指名22号) : 室田日出男
  • 柳田桐子 : 倍賞千恵子
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あらすじ

1968年1月。北海道警察の三上は生活を顧みることもできないほど多忙を極めていた。そんなとき妻の直子が犯した一度の過ちを許すことができずに離婚。直子は幼い息子を連れて、小樽の銭函駅から去っていった。それから間もなく、検問中の先輩刑事が三上の目前で射殺された。犯人は「指名22号」と呼ばれる警察官ばかりを狙った連続殺人犯だった。

1976年6月。三上は赤いミニスカートの女性ばかりを狙う通り魔を追って、容疑者である吉松五郎の妹・すず子の動きを張っていた。そんなとき、すず子とつきあっている雪夫という男が捜査の協力を申し出る。雪夫からの情報で三上たちは上砂川駅で五郎を逮捕することができた。

1979年12月。三上は実家のある雄冬へ帰省するため連絡船の出る増毛駅に降りたが、悪天候で船は欠航。晦日になってもまだ営業している居酒屋に入った三上は女将の桐子と男女の仲になる。年が明けてすぐ「指名22号」に関するタレコミ電話が入った。三上は桐子の様子から「指名22号」との関係を疑う。

感想・考察

『駅 STATION』は、ぼくの地元からそれほど遠くない北海道の日本海沿いにある町が舞台なのでとても親近感のある作品です。

と言っても、北海道以外の人には位置関係がわからないでしょうからGoogle Mapをキャプチャーした地図を載せておきます。

冒頭、三上が妻の直子と別れたのが青い線の下端にある小樽の銭函駅。そこから国道231号線(オロロンライン)を北上すると三上の実家がある雄冬、そしてメインの舞台となる増毛町となります。

内陸部に赤い字で書き加えた上砂川は、すず子の兄・吉松五郎が逮捕された町。上砂川は今作から数年後に同じく倉本聰が書いた『昨日、悲別で』というドラマの舞台となりました。

132分の今作は約1時間を境に前半と後半に分かれていますが、3人ものヒロインが登場したためストーリーに深みが感じられないのが残念です。これは倉本聰が書いた脚本が長すぎて、2時間の尺に収めるため削りまくったためのようです。これはハッキリ言って、倉本聰のミスですね。

三上が多忙だったころ、直子はどんな気持ちでどんな男と関係をもったのか。なぜ吉松五郎は赤いスカートの女性ばかりを狙ったのか、すず子とはどんな兄妹だったのか。なぜ「指名22号」こと森岡茂は警官ばかり狙ったのか、桐子とはどんな関係だったのか。

そうした登場人物の背景がまったく描かれていないので、彼らの存在がとってつけたような軽々しさに感じてしまいます。ほとんどエキストラ扱いです。

いっそのこと今作は前半部分をバッサリ削って、桐子だけをヒロインにしたほうがストーリーのまとまりが良かったと思います。よくこれで日本アカデミー賞の最優秀脚本賞をとれたな、というのが正直な感想です。

宇崎竜童のバイプレーヤーぶりが光る

今作には田中邦衛、池部良、竜雷太、古手川祐子、その他にもけっこうな俳優陣が大勢出ています。ギャラだけで制作費の大半を使っただろうと思いますが、その中でもいい役を与えられたのが雪夫役の宇崎竜童。

雪夫はすず子をもてあそんだ挙句、三上たちに五郎を逮捕させるために彼女を利用します。数年後には他の女と所帯を持って、何事もなかったようにすず子に気安く声をかける軽薄な男です。そんな田舎の不良が、薄っぺらいストーリーの中でいいアクセントになっていました。

宇崎竜童は今作でバイクに乗るために自動二輪免許をとったそうですが、劇中で乗っているのはスズキのGSX750Eという大型バイク。でも、当時の大型二輪免許は落とすための試験と言われていたほど取得がむずかしい免許でした。

そんな時期にとったバイクの免許ですから、たぶん400ccまでしか乗れない中型二輪免許だったのではないかと思います。ま、そこは昭和ですから細かいことは言いっこなしですね。

細かいことついでにもう一つ。

増毛のスナックで三上が電話をしているとき、なだれ込むように雪夫たちが入ってきます。そのとき店内に流れていた曲は矢沢永吉が率いたキャロルの「ルイジアンナ」。

いやいや、そこはやっぱり宇崎竜童が率いたダウンタウン・ブギウギバンドの「港のヨーコ・ヨコハマヨコスカ」でしょう。港町だけに。しかもライバル関係にあったキャロルの曲ってワザトなのかジョークなのか、どっちなんでしょう?

宇崎竜童は今作で日本アカデミーの優秀助演男優賞を受賞するとともに、最優秀音楽賞も受賞。マルチなタレントぶりを発揮しています。

期待値が高すぎるだけで、けして悪くはない作品

冗長な脚本を削ったため、全体的に薄いストーリーとなってしまった今作ですが、それでも世間一般に多くみられる凡庸な駄作というわけではありません。

ただ、脚本:倉本聰、監督:降旗康男、主演:高倉健となると、どうしても期待値のハードルは上がってしまいます。そのため厳しめのレビューとなりましたが、観ていてつまらなかったわけじゃありません。

昭和を生きた者として画面に映し出される光景にはノスタルジーを感じますし、桐子を演じた倍賞千恵子には、山田洋次作品では見られない生々しい女を感じることができました。それだけに深みの足りないストーリーが惜しい。

とは言え、前に観たことがある人も、まだ観たことのない人も、ぜひこの機会に『駅 STATION』をご覧ください。

舞台となった増毛町に行ってきた

久しぶりに今作を視聴したこともあって、舞台となった増毛町を訪れてきました。

増毛駅は2016年12月5日をもって廃線。今は線路も剥がされて、駅舎とホームだけが残っています。

旧駅舎内には売店が入って、キレイに保たれています。

すず子が働いていた風待食堂。現在は増毛町の観光案内所として利用されています。平日に行きましたが、係の人が一人いらっしゃいました。

壁に映画の写真がズラーっと並べられています。高倉健が武田鉄矢の方に頭を載せて居眠りするオッサンのBL的なシーンは笑えますが、銭函駅で涙をこらえながら三上に敬礼で別れを告げた直子の姿は写真からも胸を打たれます。

そして肝心の居酒屋「桐子」ですが、じつは増毛町にはありません。

居酒屋のシーンは東宝の撮影所に作られたセットで撮影されたため、モデルとなった店がないんですね。でも、ここを訪れるファンのために風待食堂の中にあのカウンターが再現されていました。

やっぱりこれがないと、ファンとしては納得できませんね。こんなカウンターで女将と熱燗を酌み交わしたいものです。

風待食堂の隣りにあるのが、三上たちが張り込みしていた富田屋旅館。駅は真正面にあるので、出入りする人を漏れなくチェックできます。

『駅 STATION』を巡る北海道の旅はいかがでしょう?

新型コロナウイルスによって自粛されていた旅行も、ようやく元どおりに楽しめるようになりました。もしかするとこの映画を観て、舞台となった増毛町などに行ってみたいと思う方もいらっしゃるのではないでしょうか? ということで、ザックリとルートを検索してみました。

旭川空港に着いた場合は、レンタカーを使って美瑛・富良野からスタート。そして高倉健と広末涼子の『鉄道員(ぽっぽや)』の舞台となった南富良野町の幾寅へ。高倉健が演じた佐藤乙松駅長が住んでいた旧駅舎のそばには、劇中で使われた「だるまや食堂」や汽車なども残されています。

1999年に公開された高倉健主演『鉄道員(ぽっぽや)』の舞台となった旧幾寅駅。

幾寅からは今作で五郎が逮捕され、『昨日、悲別で』の舞台にもなった上砂川町へ。そして増毛町、雄冬、銭函駅を経るコースは、自然豊かな景色と札幌や小樽など王道の観光スポットが楽しめます。

走行距離が長いので1泊2日だと廻れないスポットが出てきそうですが、2泊3日なら余裕のルートです。北海道を廻りながら、ぜひ映画の世界を堪能してください。