『お終活 熟春!人生、百年時代の過ごし方』は実在する葬儀屋の広告映画?

映画・ドラマレビュー
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作品概要

『お終活 熟春!人生、百年時代の過ごし方』は「終活」をテーマにしたコメディー映画。一組の老夫婦が終活を巡って巻き起こす騒動が家族の絆を結び直します。

喜劇としてはじゅうぶん楽しめる作品ですが、実在する葬儀社の広告宣伝映画というところは割り引いて観たほうがいいかもしれません。

  • 大原真一(大原家の主):橋爪功
  • 千賀子(真一の妻):高畑淳子
  • 亜矢(真一・千賀子の娘):剛力彩芽
  • 菅野(すがの)涼太(葬儀社の新人社員):水野勝
  • 敬一(涼太の父):西村まさ彦
  • 桃井梓(葬儀社の主任・涼太の上司):松下由樹

 

  • 監督・脚本:香月秀之
  • 製作:フレッシュハーツ
  • 配給:イオンエンターテイメント
  • 公開:2021年5月21日
  • 上映時間:114分
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あらすじ

母親の延命治療を打ち切った父・敬一と疎遠の菅野涼太は、勤めていた企業の倒産を機に葬儀社に転職する。同じころ、キッチンカーを営む大原亜矢もしつこく見合いを勧める父・真一に辟易としていた。

ある日、亜矢の母・千賀子は涼太が勤める葬儀社の「就活フェア」に参加し、葬儀の際に上映する「メモリアル映像」の抽選に当選する。しかし、真一は千賀子が勝手にはじめた終活と涼太に嫌悪感を隠さない。そんな矢先、千賀子が脳梗塞で倒れてしまう。

感想:のんびり「終活」できる高齢者だけが楽しめる映画です

シリアスなテーマに笑いという衣を着せるのが喜劇。そして日本の映画界で喜劇を作らせたら『男はつらいよ』シリーズなどを手掛けた山田洋次監督が代表格でしょう。今作『お終活 熟春!人生、百年時代の過ごし方』を観て真っ先に感じたのは、山田洋次監督の作風と似てることでした。

とくに亜矢の父・真一に橋爪功、涼太の父・敬一に西村まさ彦を起用しているところは、当然のように山田洋次監督の『家族はつらいよ』シリーズを連想します。むしろ香月秀之監督は、終活というシリアスなテーマだけに、あえて山田洋次っぽい作風に仕立てたのかもしれません。

『家族はつらいよ』:妻に熟年離婚を切り出されないようにするには?
作品概要 『家族はつらいよ』は3世代同居の平田家に巻き起こる家庭内騒動を描いた喜劇映画。2013年の映画『東京家族』と同一キャストのまま、山田洋次監督が新たな喜劇シリーズとしてメガホンを取りました。 主なキャスト 周造:橋爪功 富子:吉行和

今作の冒頭では、「人生100年」という長さの意味に気づいている人は少ないとナレーションが入ります。つまり、人は生まれたときより死ぬときのほうがたいへんだということ。もちろん本人よりも、残された遺族のほうが大変なめに逢います。

だからこそ、今のうちに終活をはじめてスムーズに死にましょう! というのが今作のメッセージです。しかし今の御時世、呑気に「終活』できるのは経済的な余裕がある高齢者だけでしょう。

亜矢の父・真一は麻雀三昧の日々、母の千賀子はコーラスグループの仲間と優雅にランチを楽しむ悠々自適な日々を送っています。長男は海外出張から変えれば部長昇進が控え、孫にも恵まれています。そんな真一の悩みは、一人娘の婚活だけ。

しかし、こんな幸せな老後を過ごしていられる高齢者は今の日本では少数派かもしれません。

一時期「下流老人」という書籍が話題になりました。著者の藤田孝典氏によると、下流老人とは「生活保護基準相当で暮らす高齢者、およびその恐れがある高齢者」のことだそうです。しかも生活保護は住民税や医療費が免除されますから、下流老人は生活保護の受給者より厳しい状況にあります。

また別の定義では、預貯金などの金融資産が500万円以下の人を下流老人とする分け方もあり、この場合は高齢者の約1/3が下流老人となってしまいます。

非正規労働者が労働人口の4割近くになり、年金の支給もどんどん先延ばしにされるこの国では、高齢者の多くが終活どころではありません。むしろ過労死だけが、下流老人にとっての終活かもしれません。

今作の『お終活 熟春!人生、百年時代の過ごし方』はそうした下流老人などは眼中にありません。悠々自適で優雅な「終活セレブ」になれる中流以上の高齢者が対象です。

というのも劇中の葬儀社は名古屋にある実在の葬儀社で、劇中の「終活フェア」などもこの葬儀社が提供しているメニューです。つまり今作は「終活」で一稼ぎしたい葬儀社の広告宣伝映画でした。

もちろんコメディー映画としてはよくできていますが、そうした裏事情が透けて見えると、ちょっと興ざめしてしまいます。今作を呑気に笑って観られるか否かは、観る人の経済事情が大きく左右しそうです。