作品概要
映画『狗神』は坂東眞砂子のホラー小説を原作とした作品。四国の片田舎で許されない愛に生きる男女の物語。近○相○というタブーと四国の美しい風景とのアンバランスさが独特の魅力となっています。
- 監督・脚本:原田眞人
- 公開:2001年1月27日
- 上映時間:105分
主なキャスト
- 坊之宮美希:天海祐希
- 奴田原晃(美希の息子、婚約者):渡部篤郎
- 坊之宮隆直(美希の兄、晃の父):山路和弘
あらすじ
四国の尾峰で暮らす美希には、知らずにとは言え兄の隆直と愛し合った過去がある。それ以来、美希は自分を抑えてひっそりと生きていた。
そんな美希の前に晃という若い男があらわれ、二人は年の差を超えて愛し合う。しかし晃は、かつて美希が産んだ隆直との子どもだった。
感想:街田しおんがヒステリックな園子を好演
Wikipediaによると「狗神筋」と言われる家系は実在し、結婚する際には相手の家系が狗神筋ではないか調べる風習があったそうです。
また、喜怒哀楽の激しい人ほど狗神に取り憑かれやすいと書かれているとおり、ヒステリックで嫉妬深い本家の園子は真っ先に狗神の餌食となりました。
本家の家長で美希の実兄である坊之宮隆直の妻・園子は、自分を抑えながら生きている美希とは対照的に感情の起伏が激しい女性として描かれています。
今作では主演の天海祐希より、園子を演じた街田しおんの好演が光っていたのが印象的でした。
天海祐希の中途半端な演技が残念!
街田しおんと理香役の渡瀬美遊がバストをあらわにしたのに対して、主演の天海祐希は見えそうで見えないアングルに留めていたのが残念。
べつに天海祐希のバストが見たいわけじゃありませんが、助演女優たちの潔さに対して、主役の天海祐希が中途半端な覚悟で芝居をしたのが残念な理由です。
宝塚の元トップスターというプライドなのか、それとも原田眞人監督が気を使ったのかは知りませんが、胸を出すくらいの演出がダメなら天海祐希を主役に起用する必要はなかったように思えます。
そもそも美希を演じるのに天海祐希の顔立ちは派手すぎ。もっとこの役にふさわしい別の女優で観たかったのが正直な感想。それだけに街田しおん、渡瀬美遊、深浦加奈子らの助演女優が光ります。
社会の都合が悪い部分にスポットを当てた意義
昭和を知る世代としては、平成から令和までのあいだに表現が不自由になってきた息苦しさを感じます。
なんでも表面だけキレイに取り繕って、不都合なものは見えなくしてしまう。そんな社会になってしまった今は、ブログを書くにもキワドイ単語は伏せ字にするなど神経を使います。
そんな今の時代には今作のようなタブーを描いた映画を作ることはできないかもしれません。
都合の悪いことは覆い隠してしまう今の時代だからこそ、その裏にあるタブーを描いた今作を観る意義があります。
こうした因習に着目できたのは、原作者の坂東眞砂子が四国の出身だからでしょう。
彼女にとって小説のデビュー作となった『死国』も映画化され、暗めのトーンで静かに物語が進んでいく怖さが秀逸でした。怖いと言うより物悲しい正統派の日本ホラーとして超おすすめですので、こちらもぜひご覧ください。
坂東小説の映画化2作目となった今作は「狗神」という古くからの迷信と肉親間のタブーを描いた内容ですが、自然美の豊かな映像がテーマの重さや暗さを中和するように耽美で芸術的な作品に仕上がっています。
また、主人公の美希が和紙をすくシーンは日本の伝統工芸として私たち日本人はもちろん、海外の人が観ても非常に興味深い工程でしょう。
ただ映像的には、もう一つ気になったことがあります。
冒頭の和紙をすく作業や四国の山々を空撮したシーンにクレジットを入れるもんだから、せっかくの美しい映像が台無しです。
これだけビジュアルに気を使った作品なんですから、観ている側が映像にスッと没入できるよう気を配ってほしかったところです。