作品概要
『マジンガーZ対暗黒大将軍』は1974年7月25日から「東映まんがまつり」で公開されたアニメ映画。主人公の兜甲児が操縦するロボット「マジンガーZ」が新たな敵ミケーネの戦闘獣に敗北します。続編となる「グレートマジンガー」への橋渡しとなる今作は、衝撃的な主役交代が描かれました。
主なキャスト(声優)
- 兜甲児:石丸博也
- 弓教授:八奈見乗児
- 弓さやか:江川菜子
- 兜剣造:大塚周夫
- 兜シロー:沢田和子
- ボス:大竹宏
- 剣鉄也:田中亮一
- 暗黒大将軍:小林清志
- ゴーゴン大公:加藤修
あらすじ
平和なひとときを楽しむ兜甲児の前に、新たな敵「ミケーネの戦闘獣」があらわれる。出撃した甲児は苦戦を強いられ、マジンガーZも大きなダメージを負ってしまった。基地の光子力研究所も戦闘獣に襲撃され、甲児の弟シローが瀕死の重傷を負う。なんとか敵を倒した甲児だったが、それまでの敵とは段違いの強さに怖れを抱く。
再び襲撃してきた戦闘獣を倒すため決死の覚悟で出撃した甲児。しかし圧倒的な力に手も足も出ず、ついにマジンガーZは戦闘不能になってしまう。絶体絶命のピンチ! そのとき新たな勇者グレートマジンガーがあらわれた。
子ども心に衝撃的だったヒーローの新旧交代劇
「マジンガーズクラブ」の会員証に描かれた謎のロボット
小学生のとき、マンガの本に「マジンガーズクラブ」の会員募集が掲載されました。名前からして当然マジンガーZのファンクラブと思い、さっそく入会費として数百円分の切手を封筒に入れて送りました。
数日後「マジンガーズクラブ」から会員証が送られてきましたが、そこにはマジンガーZを尖らせたような見たことのないロボットの頭部が描かれています。
同級生と会員証を見せ合いながら、このロボットはなんだろう? と首を傾けたものでしたが、その謎のロボットこそが今作『マジンガーZ対暗黒大将軍』で登場したグレートマジンガーでした。
今にして思えば「マジンガーズクラブ」は、絶大な人気を誇ったマジンガーZの後続番組だけに、なんとかしてグレートマジンガーを盛りたてようとするプロモーションの一環だったようです。
無敵のヒーローがボロ負けする画期的な演出!
1974年7月25日に公開された「東映まんがまつり」では『五人ライダー対キングダーク』や『ゲッターロボ』などが同時上映されましたが、他の作品はまったく記憶に残っていません。
映画館の大きなスクリーンにマジンガーZがズタボロにやられる様子は子ども心に衝撃でした。しかし徹底的にやられてしまったからこそ、マジンガーZはロボットアニメの金字塔になりました。
正義のために戦ったヒーローたちも、いつかは負けるときが来ます。
覆面を剥ぎ取られた「タイガーマスク」、真っ白に燃え尽きた「あしたのジョー」、ゼットンに倒された「ウルトラマン」。
負けっぷりが劇的なほどヒーローの魅力は高まりますが、マジンガーZほど完膚なきまでに敗北を喫したヒーローはいませんでした。
強すぎるグレートマジンガーにチビッコたちはドン引き?
子どもはヒーローの強さに憧れると同時に、自分と同じ弱さをそこに見ることで、よりヒーローに感情移入します。連戦楽勝なヒーローほどつまらないものはありませんから、必ず強敵に苦戦するシーンが挿入されます。
ヒーローの強さに憧れながら観ている子どもたちは、時どき苦戦するヒーローの姿に自分と同じ弱さを見ます。そしてヒーローが弱さを克服して敵に勝つ姿に感動します。
しかしマジンガーZは負けたまま終わってしまい、その代わりに登場したのがマジンガーZを雑魚キャラに見せてしまうほど強すぎるグレートマジンガーです。
子ども心には新しいヒーローの登場にワクワクすると同時に、あまりにも強すぎるグレートに納得できないものもありました。
強すぎてつまらない。
それが当時、全国のチビッコたちをモヤっとさせた理由じゃないでしょうか?
絶大な人気を誇ったマジンガーZの続編となるグレートマジンガーを劇的に登場させるのが今作の目的だったのでしょうが、結果的にはグレートへの期待値を高めるよりもZの人気を不動のものにしたと思います。
たとえば、クラスにA君という人気者がいるとします。A君は短気でスケベでおっちょこちょいな奴ですが、そんなところも彼の人気の理由です。
そのA君が転校することになり代わりに転入してきたのが、なんか俺らを下に見ているようなB君だったら、彼はA君のような人気者になれるでしょうか?
そこが、グレートマジンガーと剣鉄矢がマジンガーZと兜甲児を超えられない理由です。
『グレートマジンガー』のテレビアニメは視聴率も良く、『マジンガーZ』の続編としては大成功でした。しかしマジンガーシリーズを通してサブキャラ感をぬぐえないのは、あまりにも強すぎた最初の登場がアダとなったためかも知れません。
それがむしろ、マジンガーZを不滅のロボットヒーローに昇華させた結果となったようです。
劇場で公開されてから50年も経つ今作が今でも色あせていないことに驚くと同時に、このあとに生まれるすべてのロボットアニメの礎となった歴史的な名作であることを再確認できました。