作品概要
映画『マルサの女』は1987年に公開された故・伊丹十三監督の4作目となる作品。悪質な脱税事件を専門に調査する国税局査察部(通称:マルサ)の活動を描いた話題作です。
第11回日本アカデミー賞では最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀脚本賞、最優秀主演男優賞、最優秀主演女優賞など主だった賞を独占するほどの人気でした。
主なキャスト・スタッフなど
- 板倉亮子:宮本信子
- 権藤英樹:山﨑努
- 花村(査察部統括官):津川雅彦
- 査察部管理課長:小林桂樹
- 光子(権藤の内縁の妻):岡田茉莉子
- 監督・脚本:伊丹十三
- 上映時間:127分
- 配給:東宝
『マルサの女』あらすじ
港町税務署の調査官・板倉亮子はラブホテルを経営する権藤に脱税の疑いを持つが、任意調査しかできない税務調査の壁に阻まれる。しかしその後、亮子は念願の東京国税局の査察官に任命され、再び権藤との対決を叶える。
感想:
悪質な脱税事件を専門に扱う国税局査察部という部門とその調査官の存在を一躍全国に知らしめたのが今作『マルサの女』でした。
実際に脱税行為をしている者たちにとっても興味津々のテーマなので調査手口は一例しか紹介されていないでしょうが、実際にマルサはあの手この手で悪質な脱税行為を告発しているそうです。
マルサの調査と税務調査の違いは強制力の有無です。税務署の調査は任意で協力してもらうのに対して、マルサは裁判所の許可をとった強制調査を行えます。
マルサは情報部門と調査部門に分かれており、情報部門は決算書類などに不審な点がないかを調べたり、取引先や人間関係など、あらゆる内偵調査を行って脱税の確証を得ます。そして脱税の疑いが濃厚になれば裁判所に強制調査の許可を申請します。
裁判所から強制調査の許可が降りると調査部門が臨検を行いますが、その結果の告発率は60%以上と比較的高い確率になっています。
2022年度に全国のマルサが告発した脱税事件は103件で脱税総額は約100億円。平均すると1社あたり1億円弱の脱税を行っている計算になります。とくに近年の脱税事件で目立つのは、輸出業者による消費税の還付金詐欺だそうです。
時代を感じさせる悪質な脱税業者たち
今作に登場する脱税事業者たちはパチンコ店経営者、個人経営のスーパー経営者、ホテルの経営者たちですが、今となってはどれも斜陽産業で栄枯盛衰を感じさせます。
パチンコ業界は2005年に35兆円市場だったのが、2021年度には14兆円と半分以下に縮小。個人経営のスーパーは大手資本に駆逐されて、ほとんど絶滅危惧種。各地に乱立していたラ○ホテルも現在は廃墟や心霊スポットと化しています。
時代と共に脱税調査の対象となる業種も移り変わっていくので、調査をするマルサたちもたいへんでしょうね。
しかしマルサと言えども実態は悪の組織「財務省」の下部組織ですから、彼らが勧善懲悪な正義の使者とは言い切れません。ほんとうに摘発・処罰しなければならないのはパーティー券で裏金作りに精を出す政治家や、彼らを操って法人税を下げさせたツケを国民に払わせる大企業たちでしょう。
当時はマルサってたいへんな仕事だなと素直に感心したものでしたが、国民から収入の半分を税金や社会保険料で吸い取っていく財務省の下部組織を描いた今作は、今になって見直すとモヤモヤした気分が残ってしまいます。
次回作の『マルサの女2』では政治家や大企業をターゲットにしているので、そちらに少しだけ期待してみましょうか。