作品概要
映画『マルサの女2』は前年の1987年に公開され話題作となった『マルサの女』の続編。土地を転売して暴利を目論む「地上げ」を題材に、社会を裏から牛耳る政治家や大企業の暗躍をテーマにしています。
バブル景気に沸いた時代の作品ではありますが、権力を私的な財産作りに利用する腐敗した権力者たちの姿は今の時代にも通じることでしょう。
主なキャスト・スタッフなど
- 板倉亮子(マルサの調査官):宮本信子
- 花村(査察部統括官):津川雅彦
- 三島(財務省から出向の若手官僚):益岡徹
- 鬼沢鉄平(「天の道教団」の館長):三國連太郎
- 赤羽キヌ(「天の道教団」の教祖):加藤治子
- 漆原(地上げグループを率いる大物政治家):中村竹弥
- 猿渡(漆原の腹心の政治家):小松方正
- 公開:1988年1月15日
- 監督・脚本:伊丹十三
- 配給:東宝
- 上映時間:127分
あらすじ
1980年代の後半、日本経済は株価や不動産価格が高騰。都市部ではオフィスビルなどの商業施設用地が不足したため、強引に住民を退去させて土地を買い上げる「地上げ」が横行していた。地上げされた土地は転売されるたびに暴利が乗せられ、そこに関わった者たちは多額の利益を得ることができた。
そんな美味しい話を政治家や大企業が見逃すはずもなく、彼らは暴○団を利用して地上げを行っていた。「天の道教団」の館長・鬼沢は宗教法人の役員という表の顔とは別に、暴○団の会長という裏の顔も持っている。鬼沢は大物政治家・漆原とその一派から地上げを請負い一儲けしようと企むが、板倉たちマルサに目をつけられてしまう。
感想:食い散らかされる日本と無関心な国民
今の若い世代には信じられないでしょうが、1980年代の後半から1990年代の初頭までは「バブル景気」と呼ばれたイケイケな好景気でした。景気を支えたのは株価や地価の高騰でしたが、そんな狂乱景気は5年ほどで泡が弾けるように崩壊。今作はそんな異常な土地神話を描いた作品です。
前作の『マルサの女』はパチンコやスーパーマーケット、ラ○ホテルの経営者など市井の人たちがマルサのターゲットでしたが、今作は政治家や大企業など社会を裏から牛耳る影の悪者たちがターゲットです。
大物政治家の漆原が率いる地上げグループは、自分たちの手は汚さず暴○団を使って、地上げする区域に住む人たちを追い出しにかかります。ここでポイントとなるのが作中にも出てくる「借地借家法」という法律。
借地借家法では不動産の所有者よりも、借りている側の権利が強く保護されています。たとえばアパートなどの賃貸住宅に入居すると次回の賃貸契約は自動的に更新されることになり、アパートの所有者は契約期間の満了を理由に賃貸契約を解消することはできません。
そのためバブル景気のころは「居住権」を主張する賃借人を、非合法な手段で追い出しにかかる暴力的な地上げも横行していました。
ちなみに「地上げ」というのは不動産業界ではごくふつうに使われる用語で、必ずしも893が住人を脅して追い出すこととは限りません。
今作の中では893があの手この手で住民を追い出しにかかりますが、どこまでが本当でどこまでがフィクションかはわかりません。でも、ときに現実はフィクションよりも残酷なことが珍しくありませんから、過激な描写もさもありなん、という気がします。
そんな悪どい地上げグループに立ち向かうのが板倉亮子と東京国税局査察部、通称「マルサ」の面々。マルサは鬼沢の宗教法人を手がかりに影で暗躍する漆原一派を追いますが、結局マルサは漆原一派にまで手が届きません。それも当然のこと。
前作のレビューでも言いましたが、マルサが所属する国税局は財務省の下部組織です。財務省は予算の配分を巡る強大な権力で総理大臣すら懐柔してしまう組織。そして大手の銀行や大企業も政治家や省庁と癒着しながら利益を貪る「同じ穴のムジナ」たちです。そんな連中に国税局の公務員ごときが立ち向かうのは、天にツバを吐くようなもの。
当時は伊丹十三監督も、そんな社会の裏事情についてはご存じなかったのでしょう。だから今の感覚で『マルサの女』シリーズを観ると、マルサ=正義の味方として描かれた作風に興ざめするのが正直なところです。
今も昔も変わらない、政治とカネの問題
大物政治家・漆原の部下である代議士の猿渡は、一度はマルサの花村統括官の説得に応じてしまいますが、結局は地上げの恩恵に預かりラストシーンでは漆原一派と一緒に高笑い。結局、政治とカネは切っても切れないようです。
今作は政治家や大企業が暴利を貪る一方で、日本経済はまだ好調の波に乗っていました。庶民の暮らしもそこそこ調子よく回り、国民の大多数が自分を「中流」と認識していた時代でした。そのため政治家や大企業が悪どい手段で暴利を得ても、「政治なんて、そんなもんでしょ」と言える余裕があったかもしれません。
しかしインフレで物価が上がり続ける今は給料が増える見込みもなく、庶民の生活は日増しに貧しくなる一方です。そんな状況の中で、政治家たちはパーティー券を売りさばいて大儲け。脱税と指摘されても納税する気はないと開き直る面々ばかりです。
となると、いくら政治に無関心な国民でもそろそろ政治家たちにお仕置きしてやろうと思う…………かというと、そうでもありません。いくら政治とカネが報じられても、選挙の投票率を見れば一目瞭然の通り、国民の多くは政治に無関心な態度を取り続けています。
その結果、政治家や財務省をはじめとする省庁、そこに群がる大企業が暗躍し、日本を食い物にし、さらには日本を他国に売り渡すことでさらに多額の利益を貪ろうとしています。
税金を払わなければならない連中ほど枕を高くしていられるこの国が滅ぶのは、時間の問題かもしれません。そしてそれは、政治に無関心な国民の自業自得と言えるでしょう。