【レビュー】映画「鉄道員(ぽっぽや)」父と娘の時空を超えた感動の再会物語

映画・ドラマレビュー
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作品概要

映画『鉄道員(ぽっぽや)』は北海道の赤字路線を守る駅長の生涯を描いた作品。原作は浅田次郎の短編小説。第23回日本アカデミー賞 最優秀作品賞、最優秀主演男優賞など多数受賞。

公開:1999年6月5日
上映時間:112分
配給:東映
脚本:岩間芳樹、降旗康男
監督:降旗康男

主なキャスト

  • 佐藤乙松(ほろまい駅長):高倉健
  • 佐藤静枝(乙松の妻):大竹しのぶ
  • 杉浦仙次(乙松の同僚・親友):小林稔侍
  • 杉浦明子(仙次の妻):田中好子
  • 杉浦秀男(仙次と明子の息子):吉岡秀隆
  • 加藤ムネ(だるま食堂の女将):奈良岡朋子
  • 吉岡肇(炭鉱夫):志村けん
  • 吉岡(加藤)敏行(肇の息子、ムネの養子):松崎駿司、安藤政信
  • 佐藤雪子(乙松と静枝の娘):山田さくや、谷口紗耶香、広末涼子
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あらすじ

JR北海道「ほろまい駅」。かつて石炭を運んだドル箱路線も、今では乗る人のいない日も珍しくない。駅長の佐藤乙松は国鉄時代から鉄道一筋に生きた男。家族を亡くしてからは一人で駅舎に住み、ホームに立ち続ける日々だった。

年が明けたある日、ほろまい駅に3人の女の子たちが次々とあらわれる。正月休みで遊びに来た住職の孫娘だと思った乙松だが、彼女たちがほんとうは誰なのかに気づく。それは乙松にとって人生の最期に訪れた、もっとも幸せな出来事だった。

感想・考察

現在と過去を行き来しながら紡がれていく物語。回想シーンはモノクロ調にしながら、部分的に赤を強調するなど凝った技法が使われています。

また、雪子との再会では自分を厳しく律してきた不器用な生き方に乙松本人が心の底ではぬぐい切れない後悔を感じていたことがわかります。

今作は何度観ても涙なくしては観られず、YouTubeの予告動画だけでも思い出してウルウルしてしまいます。しかし、若い世代ほど佐藤乙松駅長の生き方には「ありえん」と言いたくなるかもしれません。

風邪をこじらせた雪子を病院に運ぶ妻の静枝。汽車の中から乙松を見る目は「こんなときでも仕事するんかい」と言いたげ。そして冷たくなった雪子を抱えて帰ってくると、「あんたは子が死んでも旗ふって迎えるんだね」と強烈な恨み言を放ちます。

それから15年後、闘病していた静枝が危篤になっても仕事を続けた乙松。ようやく最終列車で駆けつけた乙松を、仙次の妻・明子が「泣いてやってよ」ととがめます。それでも乙松は「ぽっぽやだから」と涙を見せません。この感覚にも「はぁ?」って思う人が多そうです。

与えられた職責をストイックに成し遂げる。それは悪いことじゃありませんが、度を超すと、なんか違うんじゃないの? と感じます。著者の浅田次郎はそんな疑問を女性たちの口を借りて投げかけていました。

しかし、乙松だって悲しい思いをしていなかったわけじゃありません。男は人前で泣くなと言われて育った世代だから泣けなかったのかもしれません。そんな乙松も、成長した雪子に再会したときは、こらえてきた悲しみや後悔の念があふれ出してしまったようでした。

乙松や仙次が国鉄に入社したのは「中卒は金の卵」と言われていた時代です。劇中に集団就職の子どもたちが出てくるように、中学を出てすぐ親元を離れて働く子どもたちが珍しくない時代がありました。

わずか15歳の子どもが国鉄という大きな組織に入り、それ以外の世界を知らずに育っていけば、乙松が言うように鉄道しか知らない人間になるのは当然です。そしてそれは、世間一般の感覚とはかけ離れた価値観を植えつけられることにもなります。

乙松は鉄道一筋の、職人気質で古いタイプの人間として描かれています。しかし、狭い世界の価値観しか持たない人は今でも珍しくありません。自分の組織しか知らない人たちが組織の論理で汚職に手を染めたり、組織からはじき出されることを怖れるあまり、自分を不幸な結果に追い込んでしまう。

公私を比べれば問答無用に「公」が優先される。「私」を優先すると自分勝手や非常識とそしられる。日本の社会に根強くはびこる息苦しさは、新型コロナウイルスでの自粛ムードでもあぶりだされました。

今作は感動物語の反面、あまりにも「私」を犠牲にする危うさを改めて考えさせてくれます。

鉄道員(ぽっぽや)の舞台となった幾寅駅に行ってきた

舞台となった「幌舞」は架空の地名ですが、ロケ地になったのは南富良野にあるJR北海道根室本線の幾寅駅。2016年の台風では堤防が決壊し、市街地にまで濁流が流れ込む事態になりました。そのときに不通となった線路の復旧作業は行われないまま、現在はバスによる運行に代替されています。

劇中では乙松が亡くなったあとも春までは駅が存続します。しかし現実は映画よりも厳しく、1984年に無人駅となってから、2024(令和6)年にひっそりと幕を閉じることになりました。

「ほろまい駅」として使われた幾寅駅は『鉄道員(ぽっぽや)』記念館として公開されており、「だるま食堂」や「キハ40 764」、理髪店が保存されています。

「ほろまい駅」正面

「ほろまい駅」内部

中はキレイに保たれています。劇中ではここにあるストーブで牛乳や缶コーヒーを温めたりしていました。

「ほろまい駅」内部

撮影中のメイキングビデオが流されていました。このシーンは静枝が乙松に子どもができたと報告する場面ですね。

待合室の隣りは撮影時の写真や小道具などが陳列されています。奥には乙松が来ていた制服も見えますね。

ホームから駅舎を見下ろしたところです。

「キハ40 764」は車両の半分がカットされて展示されています。

一泊二日でもじゅうぶん楽しめる旭川・富良野コース

新型コロナウイルスによる自粛ムードも解消されて、ようやく自由に旅行できるようになりましたね。ロケ地へ行ったのは2023年7月の平日ですが、それでもポツポツと駅を訪れる人がいたり、近くにある道の駅も8~9割ほど駐車場が埋まっていました。

ここは千歳空港からも旭川空港からも近いため、その気になれば日帰りでも楽しむことができます。しかし、せっかく北海道に来るならもう少し楽しんでいってほしいので、1泊2日で廻るコースを考えてみました。

千歳空港からレンタカーで本作のロケ地となった南富良野町幾寅へ行き、そこから富良野市へ北上、最後は旭川市に着くルートです。

富良野はドラマ『北の国から』で使われた家屋が展示されている「麓郷の森」や同作にも出てくる「ニングルテラス」などもある見どころ豊富なスポット。そして夏の美瑛では色とりどりのカラフルな畑なども楽しめます。

宿泊は旭川駅付近。目の前は繁華街のため、北海道の美味しい食材を使った料理がリーズナブルな価格で楽しめます。翌日は旭山動物園で生き生きとした動物たちを楽しみ、旭川空港から帰路に就くルートを考えてみました。

今回は個人的な趣味で『鉄道員(ぽっぽや)』と『北の国から』をテーマとしたルートですが、それ以外にも見どころはたくさんあるので、じゅうぶん楽しめるルートだと思います。これを基にして、ぜひオリジナルの北海道旅行プランを立ててみてください。