作品概要
映画『襟裳岬』は1975年4月1日に公開された、山口いづみ主演の作品。前年の1974年に森進一が歌って100万枚を超えるヒット曲となった同名曲をモチーフとした「歌謡映画」と呼ばれるジャンルです。
同曲の歌詞にある「襟裳の春は何もない春です」という部分に、当時はえりも町の人々から反感を持たれましたが、同曲のヒットで襟裳岬が全国的に知られることになりました。
主なキャスト
- 野々宮靖子:山口いづみ
- 杉山五郎:神有介
- 田口俊一:夏夕介
- 森進一(本人)
あらすじ
原宿のブティックに勤める靖子は、たまたま忘れ物を一緒に探してくれた五郎と愛し合うようになるが、その矢先、吾郎は急病であっけなく亡くなってしまう。
靖子は五郎と同郷の親友である俊一とささやかな葬儀を済ませ、二人で五郎の遺骨を故郷のえりもに届ける。
感想・レビュー
今作が公開された1975年、ぼくはまだ小学生だったのでこの映画のことは知りませんでしたが、森進一の『襟裳岬』はテレビやラジオからよく流れていたのを覚えています。
当時は「襟裳の春は何もない春です」という歌詞に、えりもの人々から反感を持たれたそうですが、結果的にはこの曲で襟裳岬が知られることになったので、その広告効果は莫大ですね。
この作品を観ようと思ったのは、山口いづみさんが主演というだけの理由。
Amazon Prime Videoで石立鉄男が主演のホームドラマ『雑居時代』(1973年 – 1974年)や『気まぐれ本格派』(1977年 – 1978年)で彼女を観て、日本的で清楚な美人だなぁと思い、今さらながらファンになったのがきっかけです。
靖子も五郎も俊一も、みんな地方から上京してきた若者たち。
靖子はブティックで働きながらデザイナーを目指し、五郎は地元のえりもに建設される冷凍倉庫のために研修中、俊一は東大合格を目指して浪人中と、三者三様に夢や目標を持って生きています。
若い頃にあるのは未来への夢や希望だけ。たとえそれが根拠のないものでも、きっと今にいいことがあると期待しながら生きていけた、昭和とはそんな時代だったのかも知れません。
それでも若者が一人で生きていくのは、辛いことや寂しいことが多いものです。
靖子と五郎は一本の細い糸のように頼りない夢や目標を心の糧として生きていますが、二人の細い糸を撚り合わせれば、もっと強い絆にできる気がしたのでしょう。
その一方で寂しい思いをしたのは俊一です。同郷の古い友人が女に取られたように感じていますが、それでも二人の恋を応援しています。
こんなふうに、親友に恋人ができて寂しい思いをしたことは、誰しも経験があるんじゃないでしょうか?
五郎が死んでしまったことは、二人にとって大きなショックでした。靖子は身寄りの少ない五郎のためにささやかな葬儀を行い、遺骨を郷里に収めるため俊一とえりもに向かいます。
えりものホテルで俊一は、これは五郎の言葉だと言って、自分のことは忘れて前を向いて生きていくように諭します。
納骨のために訪れた墓地で五郎の姉は、自分は嫁いだ身だからと納骨を靖子に委ねます。
いくら嫁いだ身と言っても、実の弟の納骨くらいしてやれよと思いましたが、よく考えてみると、わざわざ納骨のために訪れてくれた靖子に対する姉なりの気遣いだったのでしょう。
靖子と俊一は、五郎の死後は二人でともに過ごします。最初は俊一を毛嫌いしていた靖子も、五郎が言っていたように悪い人ではないように思い始めます。
しかし、五郎を介した俊一と靖子の関係がそれ以上に深まることはありません。
五郎にとって俊一は、昔から何をやっても自分より上を行く存在でしたが、亡くなった五郎に俊一は勝つことができません。
死んでしまった恋人の存在は強いものです。いい想い出だけを残して逝ってしまうのですから、俊一が今さらどれだけ靖子に恋心を抱いても五郎には勝てません。
最後は、東京へ帰る靖子と駅で見送る俊一が見つめ合ったまま別れます。二人の心の中には、互いへの小さな恋心が芽生えていたんじゃないでしょうか。
しかし、その芽は育つことが許されません。そんな、どうにもできない葛藤に気づきながらも、二人は離れていくしかありませんでした。
山口いづみの美しさと、昭和の懐かしい光景が見どころ
今の感覚で観るとストーリーは雑だし演出も臭いんですが、昭和50年頃の光景は懐かしく感じます。
とくに東京で撮影されたシーンでは、日産フェアレディZや「ケンメリ」と呼ばれたスカイライン、ホンダの初代シビックなど、旧車ブームの今なら高値で売れるクルマばかりです。
じつはアマプラで観たとき、この作品はテレビの2時間ドラマかと思いました。とても映画として制作されるほどのクオリティーとは思えなかったからです。
今ならこの程度の映画がつくられることはないでしょうが、当時は2本立てとか3本立てで上映される映画が多かったので、そうした中の一本的な作品だったのかも知れませんね。
映画としては何がとくに良かったというほどではありませんが、昭和の光景を懐かしく観られることと、山口いづみさんの美しさを堪能できるだけで十分満足でした。