作品概要
『マタンゴ』は1963(昭和38)年に公開された東宝の特撮ホラー映画。ウィリアム・H・ホジスンの小説『夜の声』を原案に『S-Fマガジン』の初代編集長・福島正実が脚色。
特撮はウルトラシリーズで知られる円谷英二が担当。手間のかかったミニチュアやセットなどを駆使した映像にはCGでは出せないリアリティーがあります。
また、上辺だけの人間関係が簡単に崩れていくストーリーは、つながりすぎた現代にも共通するテーマと言えます。
主なキャスト
- 村井研二:久保明
- 関口麻美:水野久美
- 作田直之:小泉博
- 小山仙造:佐原健二
- 吉田悦郎:太刀川寛
- 笠井雅文:土屋嘉男
- 相馬明子:八代美紀
- 船内の怪人:天本英世
あらすじ
男女7人を乗せたヨットが難破し無人島に流れ着く。海岸には核実験による放射能汚染を調べていた海洋調査船が朽ち果てているが、そこに乗組員の姿はなかった。少ない食料や役割分担を巡って7人のあいだには争いが起こるようになり、同時に得体のしれない存在にも脅かされる。
感想・レビュー
昔から『マタンゴ』という単語に聞き覚えはありましたが、それが映画のタイトルだと知ったのは割りと最近。古いけれど今でも人気のある和製SFホラー映画と知ってDVDを購入。正直言って、チープなC級映画だろうとあなどっていましたが、いい意味で裏切られた作品でした。
こういう古い映画にはストーリー展開がまどろっこしい作品も多いんですが、『マタンゴ』はテンポよく進んでくれるので、90分のあいだ飽きることなく観ることができました。
個人的にはクラブ歌手の麻美を演じる水野久美さんの妖艶な美しさがいちばんの見どころ。彼女にはこうした美人で高飛車な役がよく似合います。
もう1人の女性は明子役の八代美紀さん。麻美とは対象的におとなしくて庶民的な女性を演じていますが、ラスト近くでキノコを口にしているときは、人が変わったように妖しげな表情に一変します。
ストーリー的には人間関係の縮図が描かれていて、それまで表面的にはうまく付き合ってきた人たちが、危機に見舞われるとドンドン関係が悪化していく様子が飽きさせない理由の一つです。きっと人間関係は、人類にとって永遠に解決できない問題なんでしょうね。
そして、いちばんの見どころは、やっぱり特撮。ぼくらの世代で円谷英二といえばウルトラシリーズの特撮監督というイメージですが、今作『マタンゴ』ではすでに初期のウルトラシリーズで観られるような特撮技術がふんだんに使われています。
今ならどんなシーンもCGで簡単に生成できるでしょうが、このころの特撮はすべて手作り。スタジオで使用したヨットも実際に3人くらいは乗れる大きさのものを作ったそうです。
また今作のために、米国オクスベリー社の「オプチカル・プリンター」という最新のフィルム合成機を導入。一度に4本のフィルムを合成でき、拡大しても誤差の少ない優れものだったそうです。そのため、当時としてはとてもナチュラルな合成映像となっています。
ちなみに劇中で船内に現れる赤い服のキノコ怪人を演じているのは、後に『仮面ライダー』で死神博士を演じた天本英世さんだそうです。
DVDには特典映像として村井助教授を演じた久保明さんによるオーディオコメンタリーが収録されています。別件でアメリカに行ったときに『マタンゴ』を観たと声をかけられたことがあるとか、意外な国からファンレターが届いたことがあると語っていました。
以前に水野久美さんも同じようなことをインタビューで話していたので、『マタンゴ』は日本人のぼくたちが思っている以上に、海外でも知られた作品だったようです。
特撮は昔ながらのアナログがいいか、それともリアルなCGのほうがいいかと意見がわかれることもありますが、『マタンゴ』を観ると、やっぱり手間暇をかけて作り上げたアナログな特撮にはCGでは出せない迫力があるように感じます。むしろ、今ではもうこんな手のかかる特撮などできないでしょうから、それだけに当時のアナログな特撮作品は、日本のエンターテインメントの財産としていつまでも残ってほしいと思います。