昔からそうだからという理由だけで、今でもあたりまえのように続いている制度や慣習ってありますよね。「身元保証人」という制度もそのひとつ。今回は今の時代に身元保証人を求める必要はあるのか? と考えてみます。
予想外に責任の重い「身元保証人」制度
就職するときや賃貸住宅を借りるときなどは、身元保証人をたてるように要求されますよね。この他にも入院や手術、介護施設への入居など、日本の社会ではいろいろな場面で身元保証人を求められることがあります。
「身元保証人」
字面だけ見ると、「この人は○○に住む日本一郎さんだと証明します」みたいな軽いことのように感じます。しかし、お気楽な語感に秘められた闇の深さは、けっして知らずに通り過ぎることはできません。下手したら、一生を棒に振るほどの重い責任を負うことになってしまいます。
身元保証人が負う責任の範囲を具体的に見ていくと、以下のようなものがあります。
- 滞納している家賃や入院費・手術費の立て替え払い
- 第三者に与えた損害の賠償
- 手術の立会、延命処置などへの同意
- 退院時の身柄引取や生活支援(扶養)
- 遺体・遺品の引き取り、埋葬、相続手続きなど
身元保証人に求められることが、こんなにハイスペックだと知らなかった方は多いんじゃないでしょうか?
当人が与えた損害賠償から死後の手続き諸々まで、「こんなことまでやらされんの?」っていうくらいの重責ですね。これじゃあ身元保証人なんて誰もなりたくありません。
2020年4月からの民法改正で、従業員の身元保証人が負う賠償額については企業との合意が必要になりましたが、その金額に上限は設けられていません。
とは言え、企業もあまり高額な金額を要求すると身元保証人を確保できません。それでも相場として当人の年収分を保証するとなれば、新卒社員でも200万円以上になってしまいます。
ただし企業が被った損害を、そのまま当人や保証人に請求できるわけじゃありません。
利益は企業のもの、損害は当人と保証人のものじゃ筋が通りませんし、経営していれば発生しうる損害に備えておくのは経営者の責任でもあります。
もちろん当人が故意、または重大な過失で企業に損害を与えた場合は、当人と一緒に身元保証人にも損賠賠償を負う責任はあります。しかし起こりうる経営上のリスクまで、まるごと請求することはできません。
実際に企業が身元保証人に損害賠償を請求することは少なく、身元保証人が単なる慣習となっているとも言えます。それでも身元を保証した以上は、ある日とつぜん多額の請求をされる可能性は捨てきれません。
先ほど挙げた5つの項目は家族や親族が負うのが当然とされてきたことばかりですが、今の時代はなかなかそうも言えなくなっています。
少子高齢化と家族関係の希薄化で身元保証人を頼めない
そもそも身元保証人は、江戸時代に奉公人の身元や債務を保証する「人請(ひとうけ)」が起源とされています。
なんと、江戸時代です! そんな大昔の制度が今まで続いていることに驚きますね。
日本という国は、良くも悪くも「家」を単位として社会が成り立ってきました。だから、子どもが働くときには親が、親が入院するときには子どもが身元保証人になるのが当然でした。
しかし、今は親が高齢で保証人になれるだけの経済力がないことも珍しくありません。同じように、子どもにも経済力がなく親の保証をすることができないこともあります。
また、家族と不仲だったり関係が疎遠になっていることもありますから、身内に身元保証人を頼むことが難しいこともあります。
しかし民法877条には親子や兄弟姉妹はもちろん、場合によっては三親等の親族にまで扶養義務を負わせると書かれています。
どこまでが「三親等」かピンとこないでしょうが、ひいお爺ちゃんやひいお婆ちゃん、ひ孫の代まで入ります。ここまでくると、国は国民を助けようという気はないとしか思えません。
何年か前に菅(すが)元総理が「自助・共助・公助」の順番だと言ったことがあります。まずは自分でなんとかしろ、ダメなら身内でなんとかしろ。お上を頼るのは最後の最後だということです。
自分でなんとかできるくらいなら誰も困りませんし、その前に解決してます。それでもダメなら家族や親族に頼るのも、まあ理解できますが、今の時代に「よっしゃ、任しとき!」と快く世話になれる身内がいる人って、どれくらい居るんでしょうね。
これって身元保証だけじゃなく、生活保護が受けにくいという問題とも同じですね。
サザエさんやちびまる子ちゃんの家みたいに三世帯が仲良く同居しているなら家族で助け合うこともできるでしょうが、核家族化を通り越して「ぼっち世帯」の時代に頼れる身内のいる人はそれほど多くないんじゃないでしょうか?
しかも、この国は「人生100年時代」とか「一億総活躍社会」とか、オブラートの上にホイップクリームを塗りまくったような甘言でごまかした「死ぬまで働け政策」を絶賛実施中です。それだけ働かなければと生きていけない国で、頼れる身内なんてどれだけいるんでしょう?
身元保証を代行する民間のサービスもありますが、こうしたサービスを利用できるのも金持ちだけ。たとえば、ある身元保証サービスの料金はこのようになっています。
- 入会金:100,000円
- 身元保証:275,000円(終身)
- 年会費:48,000円
- 葬儀支援:275,000円
- 納骨支援:110,000円
- 遺品整理:別途見積もり
地獄の沙汰も金次第。お金さえあればできないことはほとんどありませんが、お金がなければどうにもなりません。まさにこの世は生地獄ですね。
さらに、こうした民間の保証サービスは監督省庁がなく、登録や免許もいらないので野放し状態。そのため、利用者とのあいだにトラブルが生じることも少なくないようです。
今後は民間の保証サービスに法的な規制などが与えられるでしょうが、それでも結局はお金がなければ利用できないことに変わりありません。
もう、いい加減に身元保証という制度そのものを抜本的に考え直す必要があるんじゃないでしょうか?