【レビュー】映画『汚れた英雄』当時はレースシーンが観られるだけでも良かった

映画・ドラマレビュー
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作品概要

映画『汚れた英雄』は1982年12月18日に公開されたオートバイのロードレースをテーマにした作品。大藪春彦の長編小説を原作としながら、時代設定を戦後の国産オートバイ黎明期から当時に変更しています。また、今作は角川春樹氏の監督第1作となりました。

80年代は空前のオートバイブームだったこともあり、一般受けしないテーマの割に配給収入は16億円と良好な成績。ローズマリー・バトラーが歌った同名の主題歌もオリコン洋楽シングルチャートで1982年12月27日付から11週連続1位を獲得する大ヒット曲となりました。

主なキャスト

  • 北野晶夫:草刈正雄
  • クリスティーン・アダムス:レベッカ・ホールデン
  • 緒方あずさ(晶夫のチームスタッフ):浅野温子
  • 緒方宗行(晶夫のチームメカニック):奥田英二
  • 晶夫のレースシーン:平忠彦
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あらすじ

全日本ロードレース選手権500ccクラスに参戦するレーシングライダー北野晶夫は、プライベーターながらワークスチームの大木圭史(勝野洋)と肩を並べる活躍をする。レースには多額の費用がかかるため、晶夫は恵まれた容貌を活かして多くの美女に近づき、彼女たちからレース資金を調達していた。

レビュー・感想

本作の公開当時は、空前のオートバイブームに突入したころ。1980年にハイパワーな2ストロークエンジンを搭載した「ヤマハ RZ250・350」が発売されたのを皮切りに、芸術的なデザインの「スズキ GSX750S(通称カタナ)」や女性ライダーを増やした「ホンダ VT250F」、武骨なイメージの「カワサキ GPZ750・400」など、魅力的なオートバイが各メーカーからたくさん発売されていました。

海外のロードレース世界グランプリ(WGP)も日本製マシンでなければ上位に入れないほどで、ヤマハのケニー・ロバーツやスズキのフランコ・ウンチーニ、ホンダのフレディー・スペンサーらが活躍していました。

しかし当時はレースのテレビ放送などなかったので、結果がわかるのは数週間後の雑誌の記事だけ。ケニーやフレディーの写真を穴があくほど見ながら、ぼくたちライダーは動くレース映像に飢えていました。映画『汚れた英雄』はそんなタイミングで公開されたため、オートバイファンにとっては必見の作品となりました。

とは言っても、映画の内容は本格的なレースシーンを期待すると物足りないもので、角川映画お得意の原作レ〇プと言ってもいいくらいです。それでも動くレーサーたちが見られるだけでも満足で、映画館を出てからオートバイ雑誌を買って帰路についた覚えがあります。

改めて本作を見ると、登場しているレーサーたちも懐かしい顔ぶればかり。ヤマハからは草刈正雄の吹き替えを務めた平忠彦の他に、木下恵司と上野真一、そしてスズキの水谷勝も出ています。

しかしみんないつものカラーリングなので、勝野洋が演じる大木圭史は木下恵司にしか見えないし、貞永敏が演じる鹿島健も上野真一のまま。とくに北野晶夫はどう見ても平忠彦でしかありません。

今作で草刈正雄の吹き替えを演じた平忠彦は、翌年の1983年から1985年まで3年連続で全日本ロードレース選手権500ccクラスのチャンピオンとなり、そのあいだもWGPや鈴鹿8時間耐久レースへの出場など、名実ともに日本のエースライダーとして活躍しました。

1986年にはWGP250㏄クラスにフル参戦。当時は始動性の悪いヤマハに不利な押し掛けスタートだったこともあって苦戦しましたが、最終戦のサンマリノGPでは怒涛の追い上げを見せ、ついにWGPでの初優勝を飾っています。

このレースシーンはいまでもYouTubeに公開されており、ローズマリー・バトラーの「汚れた英雄」をバックに平忠彦の胸熱なレースシーンを堪能できます。

また、2022年に自宅で亡くなった俳優の渡辺裕之さんは『汚れた英雄』が映画化されたときは自分が北野晶夫を演じたいと思っていたそうですから、草刈正雄さんに晶夫の役を先取りされたのは悔しかったでしょう。

そのためか、1984年には泉優二の小説『ウィンディー』を原作とした同名の映画でレーサー役を主演。レース映画としてはこちらのほうが本格的でしたが、残念ながら映像はソフト化されていないようです。

映画『汚れた英雄』公開直後に今作を観たあと、原作となった大藪春彦の小説を読んでみました。角川文庫で計4冊という大作でしたが、驚いたのは時代設定がまるで違っていたことでした。

原作の舞台となった時代は戦後の、まだ日本のオートバイメーカーが黎明期のころです。晶夫が「第1回浅間高原(火山)レース」に出場するあたりから物語が始まり、後半では「MVアグスタ」チームで活躍し、マイク・ヘイルウッドなど当時のライダーたちも実名で登場していました。

細かいディテールにこだわる大藪春彦の作品なので、当時のライダーたちがレースで競り合っている様子や、晶夫が数々の美女たちと浮名を流している様子などが有々と目に浮かぶいい作品でした。ぼくにとってはお気に入りの作品で、過去に何度も小説『汚れた英雄』を読み返したことがあります。

しかし残念なことに、小説『汚れた英雄』は絶版のまま。Amazonで見ると当時の文庫本がボッタクリ価格で出品されています。諸事情で復刊はむずかしいのかもしれませんが、Kindleのような電子書籍でもいいので、ぜひ手軽な価格で復刊してほしいと願います。

学生時代に買い集めた大藪春彦や片岡義男の文庫本は、いつの間にか手元から無くなりました。実家の両親が処分したり、自分も引っ越しのときに捨ててしまったりしたようです。当時はいつでも買い直せると思っていた作品たちが、今はもう読めなくなっているのは無念としか言いようがありません。昔の作品をもう一度手軽な価格で読めるようにしてほしいと切に願います。

映画『汚れた英雄』は2023年10月13日に4Kデジタル修復版として発売されることになりました。立体音響技術を使った臨場感のあるサウンドや高画質な映像のほか、関係者へのインタビューやスチール写真で構成されたA4サイズ90ページの特別編集本などが付属するそうです。

価格は2万2440円と悩む金額ですが、こうした記念盤も買えるときに買っておかないと、また手に入らなくなってしまうのかもしれませんね。

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